建設業 働き方改革
建設業の2024年問題とは?
課題や有効な対応方法を解説
公開日:2023 / 7 / 26更新日:2024 / 3 / 18
建設業が直面している「2024年問題」とは、主に2024年4月から時間外労働時間の上限規制が適用されたことで想定される、さまざまな課題を指すものです。
働き方改革の一環として2019年4月(中小企業は2020年4月)に適用された時間外労働時間の上限規制は、建設業界においては5年間の猶予期間が設けられていました。猶予期間が終了して建設業界においても規制が適用されましたが、それにより多くの課題が懸念されています。また、中小企業における割増賃金率引き上げによる課題も同様です。
今回は、建設業の2024年問題について説明するとともに、どのような課題がありそれにどう対応すべきかを解説します。また、すでに取り組みを行っている企業事例も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
建設業の2024年問題とは?
建設業にとっての2024年問題とは主に、猶予されていた時間外労働上限規制が適用された後、従業員に今までのような長時間労働をさせることができなくなり、労働力が不足することから、業務遂行が困難になる問題を指します。
2019年4月、働き方関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)の制定・施行により、労働基準法や労働安全衛生法などの法律が改正されました。その目玉の一つが労働基準法36条、いわゆる36協定の改正です。
36協定とは、労働基準法に定められている「法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)」や「毎週少なくとも1回の休日」といったルールを超えて従業員を働かせる場合に必要な協定です。
労使間による協定の書面での締結と労働基準監督署への提出によって、効力が生まれます。改正のポイントは、時間外労働の上限規制です。
36協定について詳しくは、「建設業も対象となる36協定とは?2024年4月施行に向けて建設業が抱える課題と解決策を解説 」をご覧ください。
なお、同じく猶予されていた中小企業における割増賃金率の引き上げによる影響も、2024年問題の概念に含まれます。
時間外労働の上限規制
認められる時間外労働時間は原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別な事情があり、労使の合意がある場合でも、以下の範囲しか認められません。
- 時間外労働時間が年720時間
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計の平均が、2ヵ月・3ヵ月・4ヵ月・5ヵ月・6ヵ月全て80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年に6ヵ月
この時間外労働の上限規制は、すでに2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)より施行されていますが、建設業や自動車の運転業務、医師などに対しては5年間の猶予期間が与えられていました。
しかし、2024年4月からは上限規制適用の対象となり、建設業に対しては以下の取り扱いで時間外労働時間が規制されます。
- 災害の復旧や復興の事業を除き、上限規制が全て適用される。
災害の復旧や復興の事業に関しては「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満」「時間外労働と休日労働の合計の平均が、2ヵ月・3ヵ月・4ヵ月・5ヵ月・6ヵ月全て80時間以内」は適用されない。
上限規制の導入前までのように、労働者に長時間の時間外労働をさせることはできなくなります。そのため、事業に支障が出ないように労働環境を整備して業務の効率化を図るといった対応が求められているのです。
36協定による時間外労働の上限規制は、改正前から告示はされていました。しかし、以前は努力目標であり、強制力がなかったため、働き方改革の柱の一つである長時間労働の是正が思ったようには進まなかったのです。そこで、働き方関連法の制定により、違反した場合の罰則を設け、強制力を持たせたのが最大の変更点といえるでしょう。
時間外労働に対する割増賃金
企業は従業員に対し時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた場合、通常の賃金に加え割増分の賃金も支払わなければなりません。
割増の割合は割増賃金率といって、2010年に改正労働基準法により、月60時間を超えて働いた時間に対する割増賃金率が25%から50%になりました。しかし、対象となるのは大企業のみで、この時点では中小企業には適用されていませんでした。
その後、2018年の改正労働基準法により、中小企業に設けられていた猶予措置が廃止され、2023年4月からは中小企業の割増賃金率も50%に引き上げられています。
なお、割増賃金率は、時間外、休日、深夜労働によって異なります。具体的には次のとおりです。
時間外労働 | 原則通常賃金の1.25倍以上 (ただし月60時間を超えた分に関しては1.5倍以上) |
---|---|
休日労働 | 1.35倍以上 |
深夜労働(22時~翌5時まで) | 1.25倍以上 |
例えば、A社の定時が10時~19時(休憩1時間含む)で、休日に10時~23時まで働いた場合の賃金は次のとおりです(1時間の賃金を2,000円として計算)。
10時~19時:2,000円×1.35×8時間=21,600円
19時~22時:2,000円×(1.35+0.25)×3時間=9,600円
22時~23時:2,000円×(1.35+0.25+0.25)×1時間=3,700円
21,600円+9,600円+3,700円=34,900円
建設業の残業上限規制に5年の猶予があった理由
建設業の残業上限規制に5年の猶予があった主な理由は、厚生労働省によると「長時間労働の背景に、業務の特性や取引慣行の課題があること」とされています。建設業特有の事情・課題から、他の業界に比べて今すぐの残業上限規制は現実的ではないと判断されたのでしょう。
では、建設業における課題とはどのようなことでしょうか。主に「人手不足」「長時間労働の常態化」「DXへの取り組みの遅れ」が考えられます。それぞれ説明します。
なお、「人手不足」と「長時間労働」に関しては、2023年4月18日に国土交通省不動産・建設経済局が発表した「最近の建設業を巡る状況について【報告】」のデータに基づき説明します。
人手不足
日本は、少子高齢化が進んで労働人口が減少することから、社会全体で労働力が不足する問題を抱えています。特に建設業は他産業よりも人手不足が深刻な状況にあります。その理由として、労働環境が過酷であること、3K(汚い・キツい・危険)や新3K(帰れない・厳しい・給料が安い)といわれるようにイメージが悪いことなどが挙げられます。
同報告によると、建設業従事者数は次のように減少していることが示されています。
1997年685万人
↓
2010年504万人
↓
2022年479万人
また、建設業就業者を年代別に集計すると、2022年データで55歳以上が35.9%であるのに対し、29歳以下は11.7%です。実数ベースでは、2021年と比較して55歳以上が1万人増加したのに対し、29歳以下は2万人減少しており、高齢化が深刻に進んでいます。このため、高齢を理由とした離職により、建設業はさらに人手不足に陥ることが懸念されています。
長時間労働の常態化
建設業は決まった工事期間内で必要な施行を全て完了しなければなりません。完工予定を遅らせることは許されず、無理をしてでも間に合わせることが求められます。また、先に述べた人手不足の影響もあり、建設業では長時間労働が常態化していると考えられます。同報告には、以下のデータが示されています。
- 産業別年間出勤日数
建設業の年間出勤日数は、製造業と比べて16日、全産業と比べて12日多い
産業別年間実労働時間
建設業の年間実労働時間は、製造業と比べて68時間、全産業と比べて90時間長いまた、年間実労働時間について約20年前と比較すると、全産業では約90時間減少しているのに対し、建設業は約50時間しか減少しておらず、今後も差が開き続けていくことが懸念されています。
休日の取得状況も、建設業は「4週6休程度」の回答が44.1%と最も多く、他産業ではあたりまえになっている週休2日制も実現困難な状態なのです。
DXへの取り組みの遅れ
2022年5月、独立行政法人中小企業基盤整備機構が行った「中小企業のDX推進に関する調査」によると、建設業のDXへの取り組み状況は、「すでに取り組んでいる(4%)」「取り組みを検討している(12%)」をあわせても、16%しかありません。これは、小売業、サービス業(宿泊・飲食業)と並び、全産業の中で最も少ない数字です。
DXへの取り組みが遅れている理由としては、ITツールを上手く活用できていない点が挙げられます。あらゆる業界でDXが叫ばれている現在でも、紙などアナログな方法で勤怠管理をしている企業は少なくありません。
原因としては、建設業界はいまだ業務において紙の使用が一般的で、長年アナログな方法に慣れているためデジタル化への抵抗感が高いためと考えられます。アナログ業務が多いとどうしても業務が長時間化してしまい、残業は減少しません。
以上のような建設業の課題を考慮し、時間外労働時間の上限規制に5年間の猶予期間が与えられたことが推測されます。
これらの課題が解決したかどうかに関係なく、猶予期間の終了により、建設業においても時間外労働時間の上限規制が適用されることになります。また、それにより、さらなる課題の発生が懸念されています。
2024年問題で懸念される課題
2024年問題においては、主に次のような課題の発生が指摘されています。
人手不足がさらに悪化する可能性がある
人手不足が続くなか、時間外労働の上限規制が適用されたことになります。そのため、少ない人数でこれまで以上に業務負担が増えるリスクが高まり、離職率の上昇につながるかもしれません。それにより、人手不足がさらに悪化してしまう可能性もあります。
経営悪化リスクが高まる
これまで大企業にのみが対象であった割増賃金率が、2023年4月より中小企業にも適用されています。企業によっては残業代負担が増加し、経営を圧迫するリスクが高まるでしょう。
なお、建設業では後継者不在問題も他の産業に比べ高い数値となっています。経営が圧迫されると、そのまま廃業してしまう可能性も考えられる、深刻な問題です。
いずれの課題も、一人あたりの労働時間の管理が有効な対策となります。
建設業の2024年問題への有効な対応方法
建設業の2024年問題対策にまだ着手していないのであれば、早急に取り組まなければなりません。現場の管理業務で労働時間が長くなりがちな施工管理・現場監督の2024年問題に対する有効な対応方法としては、以下のことが考えられます。
職場環境を改善する
建設業といえば業種の特徴として、どうしても過酷な環境で労働しなければならないことが多くなります。ただし、改善の余地がないわけではなく、事業主側の努力によって働きやすい職場へと変えることが可能です。例えば、社内でコミュニケーションをより促進できるような時間を積極的に設け、問題を早期解決できるような環境作りをしたり、業務を均等に振り分け、過度な労働を防いだりと、さまざまな手段で職場環境の改善を図ることが大切です。職場環境改善の実現によってイメージアップも図れ、労働力不足の問題解決につながるでしょう。
労務管理を適正化する
建設業は社内・在宅・現場というように勤務場所が複数あり、労働時間の把握が難しい業種です。資材調達の遅れなどの理由による工程変更も珍しくなく、従事する作業員の労務管理が難しいことも課題のひとつとして常につきまといます。
この問題の解決方法として挙げられるのは、何が労務管理上の問題となっているのかを具体的に洗い出して適正化に向けて対策することです。さまざまな問題解決に向けて一つひとつに真摯に取り組み、適正な労務管理をすることが時間外労働の削減につながるでしょう。
生産性を向上させる
効率化に役立つ技術・システムを導入して、従来は人の手で行っていた業務を自動化して生産性向上を図ります。例えば、工程管理や安全管理、原価管理を効率的にできて、役所へ提出する各種届出・申請書をスムーズに作成可能な業務管理システムを導入して、業務に関する情報を一元管理することで、書類や口頭で伝達する手間を省くことが可能です。また、行き違いや伝え忘れから余計な作業が増えることも防げます。
建設業には工程表作成や見積書作成、受発注業務など、さまざまな業務が存在しますが、これらの業務の効率化に役立つ技術やシステムを活用することにより、生産性は大きく向上します。従業員の負担も大幅に軽減でき、時間外労働時間を削減できるでしょう。
労働時間管理にITツールを活用する
DXが加速する現代では、業種を問わずITツールを適切に導入し、業務に生かす必要があります。労務時間の管理には、勤怠管理システム、労務管理システムなどのソフトウェアの導入が業務効率化に有効です。
いろいろなシステムやソフトウェアがあり機能も多様であるため、よく比較、検討したうえで最適なツールを導入・活用することが重要です。
建設業の取り組み事例
建設業における2024年問題への取り組み事例を紹介します。
刈屋建設株式会社
岩手県宮古市に本社を構える刈谷建設株式会社では、グループウェア導入による作業効率化により長時間労働の是正を実現しました。現場事務所にネットワーク環境を整備することで、帰社せずに現場で本社と情報共有をしつつ、効率化を果しています。また、本社から現場の状況をリアルタイムで把握でき、工期の遅れがある現場にすぐ人員を回せるようになり、会社全体の問題解決にもつながりました。
伊藤組土建株式会社
北海道札幌市に本社を構える伊藤組土建株式会社では、職場環境の改善により長時間労働の是正を実現しました。具体的には、クラウド型勤怠管理システムや有給休暇の計画付与の実施のほか、週休2日制、時間制有給休暇、シフト勤務の導入などです。これらの施策により、新卒採用時においてもよい効果が生まれています。
株式会社木下組
長野県佐久市に本社を構える株式会社木下組では、次の2つの施策を実行することで長時間労働の是正を実現しました。
- ファミリーデーの導入
ファミリーデーとは、17時30分の退社時間を厳守し、家族との団欒や自分の趣味を楽しむ時間を確保できるようにする制度です。健康促進やワークライフバランスの実現を目的とした制度で、毎月第二水曜日に実施し、当日は従業員全員に「オードブル」や「鍋セット」「お菓子」をプレゼントしています。
- 有給休暇を取得しやすい環境作り
一般的に有給休暇を取得する場合、申請書を作成し、上司に承認をもらう手間がかかります。そこで同社では、できるだけ簡素な手続きで有給休暇の取得ができるよう、メールでの申請を可能にしました。また、半日や時間休の取得も可能としたことで、取得率向上を実現しています。
株式会社近藤組
愛知県刈谷市に本社を構える株式会社近藤組では、建設系の大学を卒業したベトナム人の積極的な採用により長時間労働の是正を実現しました。
ポイントは、ベトナム人が日本人職員の輪から外れないようにするため、育成する側の日本人施工管理者に対し外国人技術者を採用した目的をしっかりと説明した点です。ほかの日本人と同等に接していくことを心掛けるよう指導することで、ベトナム人が輪から外れることなく働ける環境整備が実現しています。
株式会社西九州道路
佐賀県佐賀市に本社を構える株式会社西九州道路では、建設ディレクターの登用により現場監督の長時間労働是正を実現しました。建設ディレクターとは、ITとコミュニケーションスキルを持って現場作業を支援する新しい職域です。
具体的には、建設ディレクターには、写真整理やCAD操作・図面編集、品質・工程管理、施工計画書作成などバックオフィス業務を中心に対応させました。これにより、現場監督しかできない業務に集中できるようになり、長時間労働の是正を実現しています。
建設業の2024年問題を正しく理解して対策しよう
時間外労働時間の上限規制には強制力があり、猶予期間を過ぎた2024年4月以降は例外が認められなくなりました。また、2023年4月から、それまで猶予されていた中小企業においても、割増賃金率が50%に引き上げられています。
企業は早急に対策を講じ、時間外労働の削減に向き合わなければなりません。2024年問題を解決するための取り組みとして、ITツールの活用は効果的な対応方法のひとつです。
長時間労働抑止システム「Chronowis」なら、勤怠管理システムと連携して勤務状況を適切に把握できるため、労務管理や職場環境の改善に役立ちます。「Chronowis」は、業務時間外になるとポップアップの通知やパソコンの強制遮断で働きすぎを抑制できます。2024年問題を解決するための職場環境の改善にお悩みの方は、ぜひ一度導入を検討してはいかがでしょうか。
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