残業
なかなか減らない長時間労働!その原因と効果的な対策とは?
公開日:2023 / 5 / 31更新日:2024 / 3 / 5
ワーク・ライフ・バランスが叫ばれる昨今、社員の長時間労働に頭を悩ませている企業関係者の方も多いことでしょう。長時間労働を放置すると社員が健康を害し、最悪の場合は過労死に至るケースもあります。そうなると、会社が多大な賠償責任を負うことになるでしょう。
今回は、そもそもどのような状況が長時間労働とされるのか、長時間労働が減らない原因や抑制するための対策をお伝えします。
長時間労働とは
長時間労働には法律上の定義はありませんが、一般的には週40時間を超えれば長時間労働といってよいでしょう。会社が社員に対して週40時間を超える労働をさせるためには、36協定という特別な協定が必要となっており(労働基準法第36条)、労働基準法では週40時間を超える労働を特別な事態と考えているといえるからです。
週40時間を超えて以下のような労働状況になると、過労死の可能性が高くなります(過労死ライン)。
1ヵ月当たりの時間外労働が80時間を超え、2~6ヵ月のうちに精神障害を発症
1ヵ月当たりの時間外労働が100時間を超え、1ヵ月後に精神障害を発症
このラインを超えると、精神障害だけでなく脳や心臓疾患のリスクが高まり、過労死につながる恐れがあります。
長時間労働の現状と減らない原因
日本は長時間労働をしている社員が多い傾向にあります。厚生労働省の資料によると、週の労働時間が49時間以上の日本人労働者の割合は15.3%(男性21.8%、女性7.2%)でした( 「令和5年版過労死等防止対策白書」)。韓国が17.2%で首位ですが、日本は2位です(以下、3位:アメリカ14.5%、4位:イギリス11.4%、5位:フランス8.8%、6位:ドイツ5.3%)。上記の統計に見られるように、男性に至っては約5人に1人が長時間労働に陥っています。それにもかかわらず長時間労働が減らない原因は、主に以下の3つにあると考えられます。
なぜ日本は長時間労働が多いのか
なぜ日本では、他国と比較して長時間労働が多いのでしょうか?
人員が足りていない
業務が多すぎて人手が足りず、労働基準法で定める1人当たり週40時間以内では、全ての仕事をこなせないケースです。
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、将来的な出産数が高位・中位・低位のどれであっても人口減少は免れません。15~64歳の生産年齢人口も、1995年の8,726万人をピークに2020年の時点で7,509万人と1,200万人以上もの減少です。今後、出生中位推計でも2032年には7,000万人、2043年には6,000万人を割ると予測されています。
また、2023年6月に株式会社東京商工リサーチが発表した「2023年企業の「人手不足」に関するアンケート調査」では、コロナ禍で人員削減を行った企業(2020年2月以降)で人手不足感があると回答したのは半数を超える61.5%です。この結果から、緊急事態宣言が明けた現在においても多くの企業が人員不足に課題を抱えていることがわかります。
社員の意識が低い
社員の一部には、残業代のために日中はダラダラ働き、あえて残業する人も存在するかもしれません。そのような社員は業務効率化に対する意識が低く、また、そうした意識が周りに伝染してしまい、長時間労働が企業の風土として常態化しているケースもあります。
上司のマネジメント不足
部下の残業の実態(業務量や進捗状況)を上司が可視化できていないケースです。部下の残業を可視化できなければ、部下が心身に不調を来し、不満が頂点に達するまで長時間労働が継続することになります。その結果、優秀な人材が休職したり離職したりしてしまう恐れがあります。
業務効率が悪い
2022年12月に公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2022」によると、日本の時間当たり労働生産性は49.9ドルでOECD加盟38カ国中27位。そして一人当たり労働生産性は81,510ドルでOECD加盟38カ国中29位となっています。
生産性が低下する要因の一つは、業務効率の悪さです。日本の多くの企業は、生産性の低さを長時間労働で補おうとするものの、業務効率が悪いため生産量は上がっても生産性は上がりません。そして業務効率の改善をしないまま、長時間労働をしてしまうといった悪循環になっています。
無駄な会議の多さ
2023年10月に弁護士ドットコム株式会社が発表した「社内会議白書2023」によると、88.8%が社内会議中に無駄だと感じることがあると回答しています。具体的な理由は、「長時間の会議(54.3%)」「議題が不明瞭(44.5%)」「不要な人員が多い(33.6%)」などです。そして69.2%が1時間以内に社内会議が終わらないとも回答しています。
これらの結果から、必要のない人員が参加する内容の不明瞭な長時間会議が多く、業務時間が圧迫され長時間労働になってしまう可能性が高まるといえるでしょう。
長時間労働に関係する、知っておくべき法律
長時間労働の是正については、国も積極的な動きを見せています。その一つが、時間外労働の上限規制です。大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から改正労働基準法の一つとして施行されています。主な内容は次のとおりです。
- 時間外労働の上限は月45時間、年360時間まで
- 特別な事情があり労使間で合意があった場合、時間外労働は年720時間、時間外労働+休日労働は月100時間未満で2~6ヵ月の平均80時間以内
- 原則である月45時間を超えられるのは年6ヵ月まで
また、法律で定められた労働時間の限度である1日8時間および1週40時間。そして法律で定められた休日、毎週少なくとも1回を超えて企業が労働者を働かせる場合、36協定の締結が必要です。
36協定について詳しくは「36協定とは?その概要から締結の流れ、メリット・デメリットまで幅広く解説」をご覧ください。
以上に違反した場合、企業は罰則として6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
労働基準法違反について詳しくは、「労働基準法違反とは?労働時間超過を含め違反の例と罰則 」をご覧ください。
長時間労働対策をしなかった場合に想定されるリスク
長時間労働対策をしなかった場合、企業としてさまざまなリスクが考えられます。具体的には、上述した労働基準法違反の罰則以外にも「生産性の低下」「離職率の上昇」「社員の健康状態悪化」「企業イメージの低下」などです。
生産性の低下
労働基準法が原則として1日8時間を限度と規定していることからも分かるように(第32条2項)、ダラダラと仕事に取り組むのではなく、この時間までに終わらせるという意思のもとで集中した方が、生産性は上がります。
離職率の上昇
長時間労働が常態化すると、社員が離職してしまう可能性が高まります。転職がマイナスイメージだったのは過去の話で、優秀な人材はより条件の良い職場を求める傾向にあります。また、社員が辞めると、残った人員で業務をこなす必要があるため、さらなる長時間労働を引き起こすという負のスパイラルに陥ってしまう恐れがあります。また、離職率の高い会社は求職者からも敬遠される傾向にあり、優秀な人材を招き入れる機会も減少することになります。
社員の健康状態悪化
長時間労働が常態化すると、社員がうつ病などに罹患する恐れがあり、最悪の場合、過労死の危険性もあります。上述したとおり、1ヵ月当たりの時間外労働が80時間を超えると過労死の恐れがあるため、月の稼働日が20日で1日4時間以上の残業が常態化している会社では注意が必要です。
長時間労働が原因で社員がうつ病となったり自殺してしまったりした場合、安全配慮義務に違反したことを理由として、会社に賠償責任が発生します。安全配慮義務については下記に引用したとおり、労働契約法に規定されています。
“使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をするものとする”
企業イメージの低下
「あそこは離職率が高い会社だ」「うつ病になる人が多いらしい」などの情報が出回れば、企業イメージが低下することは避けられません。SNSで拡散されてしまうと、以後の採用活動が相当難しくなる可能性があるでしょう。
長時間労働対策
どのようにすれば長時間労働を抑制できるでしょうか? 主な対策を紹介します。
有給休暇を積極的に取ってもらう
疲れる前に休んでもらうことも大事です。労働基準法が改正され、2019年4月からは全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、会社が時期を指定して取得させることが義務付けられています。
産業医を置く
社員の健康管理を担う産業医や衛生管理者を選任することも効果的な対策です。産業医は、医学的な見地から社員が健康で快適な環境で働けるよう指導・助言をします。
常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理などを行わなければならないこととなっています。
社員と会社の意識を変える
長時間労働を賞賛するような企業風土があるなら、それを変えましょう。短時間で成果を上げた社員を評価するようにすれば、仕事にめりはりをつけて取り組んでもらえますし、仕事が終わったときに帰りやすい雰囲気も自然につくり出せます。これは意識改革と言えるでしょう。
労働時間を把握する
社員の労働時間や抱えているタスクの量を把握できれば、不要な残業を可視化できます。そうすれば、不要な残業を削ることで長時間労働を抑制できます。この点については、労務管理ツールを使用したり、チャットツールを使って積極的にコミュニケーションをとったりすることで、管理が可能です。
人員を増やす
人員を増やすには募集から採用に至るまでに多大なコストがかかるため、現在の人員で効率的に仕事を進められるのであればそれに越したことはありません。ただ、上記の対策をしてもまだ不十分という場合は、増員も検討しましょう。
長時間労働の解消事例
現在、国では時間外労働の上限規制を施行したうえで、長時間労働の削減や年次有給休暇取得に向けた環境整備に取り組む企業に対する支援を行っています。
たとえば、生産性向上のための設備投資を目的とした「業務改善助成金」では、機械設備やPOSレジなどの導入にかかる費用の一部を助成しています。これにより業務効率を改善し、長時間労働の抑制につながることが期待できるでしょう。
ここでは、厚生労働省の働き方改革特設サイトから、助成金の活用やさまざまなアイディアを駆使して長時間労働解消を実現した企業の事例を紹介します。
有限会社エヌ・エス・エス
中古車販売、車検・点検整備、修理、レンタカーの取り扱いなどを行っている有限会社エヌ・エス・エス。同社では、働き方改革推進支援助成金を活用して長時間労働削減を実現しています。
同社の課題は、自動車のエアコンにフロンガスを補充する作業に多くの時間が割かれていることでした。特にエアコンが多用される夏場と冬場は、作業量も増加し、時間外労働で何とか賄っている状況だったのです。
そこで、働き方改革推進支援助成金を活用し、フロンガスの回収・注入を自動でできる装置を購入しました。その結果、以前は自動車整備士2人で30分かかっていたフロンガスの充填が、1人でできるようになり、時間もわずか5分に短縮されたのです。これにより時間外労働が減り、業務集中時の作業効率向上も実現しました。
奈良県合同陸運株式会社
主に関東地方への長距離輸送を行っている奈良県合同陸運株式会社。同社では、適正な労務管理を徹底することで長時間労働削減を実現しました。
同社の課題は、2008年頃に策定した就業規則の改定が未着手であるため、時間外労働の上限規制を見据えた取り組みができていなかった点です。また運転手の労働管理も十分にできていませんでした。
そこで同社では、社会保険労務士のアドバイスも受けつつ、勤怠管理システムを導入し、運転手の正確な労働時間を把握できるようにしたのです。また、新たに導入した給与システムと連携させることで、給与計算にかかる手間も大幅に削減されました。ほかにも労働時間制の改革を実現させ、運転手はもちろん、バックヤード業務の効率化にもつながり、時間外労働の削減に成功したのです。
株式会社荒木組
建築・土木工事の設計・施工を行っている株式会社荒木組。同社では、年次有給休暇取得促進や社員スケジュールの共有により長時間労働削減を実現しました。
業界の3K(きつい・汚い・危険)のイメージから脱却し、「“世界一働きやすい会社”を目指そう」を旗印として、改革を実行しました。具体的には、現場担当者にパソコンを支給し、いつどこにいても品質管理や人員配置、進捗状況などの共有を実施。また、現場と本社や営業所間でWeb会議を行い、移動時間の削減を行ったこともあり、2016年の時間外労働の平均が約263時間だったのに対し、2018年は約220時間と40時間以上の削減を実現しました。
ほか、年次有給休暇取得の促進や現場でのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の取り組みなどさまざまな施策を実行し、長時間労働の削減に加え快適な職場環境構築につなげています。
駿河重機建設株式会社
土木工事請負や解体業のほか、耕作放棄地や荒廃森林の再生も手掛けている駿河重機建設株式会社。同社では、最新のICT建機導入による業務効率化を果たし長時間労働削減を実現しています。
同社では、現在の社長が事業を受け継いだ際、それまでは長い間手つかずであった就業規則の見直しを行い、給与体系や労働時間、年次有給休暇などの整備を行いました。また長時間労働の要因でもある人手不足解消に向け、充実した休暇制度や労働時間の削減、安定した賃金といった労働条件の整備に加え、最新のICT建機を現場に導入。少ない人数でも効率よく業務が行える環境づくりを実行したのです。
ほかにも資格取得支援制度の創立やテレワーク導入など、社員が働きやすい環境を整備し、人材の獲得と長時間労働の是正に取り組んでいます。
株式会社ユーメディア
広告、印刷、プロモーション支援を手掛ける株式会社ユーメディア。同社では、経営者交代をきっかけにトップダウン型改革から社員参画型への変更で長時間労働削減を実現しました。
同社は、現在の経営者が後継者として入社した時点で、長時間労働の常態化に加え、休みにくい職場だったため、取締役に就任した際に働き方改革に着手しました。最初のうちはトップダウンでさまざまな制度の導入を進めていましたが、社員が意識を持たないと改革も進まないということで社員参画型へ移行し、職場環境に社員が発言できる場をつくったのです。
そのなかの一つ、「ワークイノベーション委員会」では、オフィスの閉館時間を21時と定めることで、申請と許可なく残業をできない体制を構築。社員発信により、長時間労働の削減を実現しています。
労働時間はツールを用いて効率的に管理するのがおすすめ
社員の自主性に任せていては長時間労働を抑制することは困難です。まずは客観的に社員の労働時間を可視化することが大切です。何にどれだけの時間を割いているかを確認し、無駄な業務時間を削減していくことで、長時間労働を抑制することが可能となります。ただ、労働時間の可視化を全て手作業で行えば、ミスが生まれやすくなるうえ、可視化にかかる手間が長時間労働につながってしまうかもしれません。そこでおすすめなのが長時間労働抑止システム「Chronowis」です。
「Chronowis」の活用により、パソコンの利用制限と稼働ログの取得が行えるため、勤怠管理システムとの併用で長時間労働を防止できます。また、残業時間が月間の上限値に達した場合、事前通知をしたうえで、上限を超えれば強制的にシャットダウンされるので時間外労働の上限規制にも対応可能です。
長時間労働を是正するためにも、ぜひ「Chronowis」の活用をご検討ください。
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