透明導電フィルム
革新的デバイス「FineX」
2μmの配線で新たな世界が広がる
透き通った1枚のフィルムで変わる未来、新しい世界へ――。タッチセンサをはじめとした多様なアプリケーション向けに、パナソニック インダストリーは「透明導電フィルム FineX(ファインクロス)」を商品化し、新たな透明デバイスを世に送り出しました。その特長は「高透過率」と「低抵抗」。新たな工法によって、透明なフィルム上に従来品よりも格段に細い配線を施し「高透過率:可視光を通す性能」と「抵抗値:電気を通しやすい機能」とを両立させています。
透明センサのニーズは、車載機器やタブレットPCなどの用途で年々高まっています。一見すると透明ですが、その表面に導電層があり、ルーペでのぞくと微細な配線がななめ格子状に組み合わさっています。FineXの最大の特長は、視認できないレベルの配線の細かさ。従来品は1本の線幅が4μmでしたが、それを2μm以下に抑えて透過率を高め、なおかつ低抵抗の性能も強化しました。用途はタッチセンサにとどまらず、透明ディスプレイや透明アンテナ、透明ヒーターなどに応用が可能です。
1枚のフィルムがディスプレイ、アンテナ、ヒーターに
目視で捉えられない2μmの配線は、車載用ヘッドアップディスプレイに、あるいは微小LEDと組み合わせれば自発光ディスプレイにとさまざまな機器や生活シーンに活用できます。また、低抵抗配線によって金属アンテナと同等のミリ波対応が可能になり、透明アンテナとしてモバイル端末や車の窓ガラスなどにも利用できます。FineXが特にターゲットとしているのは高周波帯域。5G/6G通信は直進性が強く障害物の影響を受けやすい特性のため、ビルや車の窓に透明導電フィルムを貼って直接電波をキャッチすれば、その効果は絶大です。車内空間や建物の意匠性を損なわない透明フィルムは、メタサーフェスの進化を担う実力と使いやすさを備えたデバイスと言えます。
パナソニック インダストリーは、2022年12月7日~9日に幕張メッセで開かれた「フィルムテック ジャパン」にこのFineXを展示し、多彩な応用例を訴求しました。車のコックピットを模した展示では、シートの前に1枚の透明な板を設置して透明ディスプレイ、透明アンテナとともに、透明ヒーターの機能も紹介。説明員は「配線のパターンを変えながら、1枚のシートで多くの用途に対応できます」と拡張性を訴えました。透明ヒーターの応用例展示では、ファンで空気を暖める方式や発熱デバイスを使った従来方式と比較し、狙った場所を効率よく温める透明ヒーターの優位性をアピール。透明でムダのないヒーターとして、その環境性能に来場者からは高い関心が寄せられました。
材料と生産機器、いずれも自前で調整する
かつてない、斬新なデバイスと位置付けられるFineX。その理由は透明導電フィルムの「高透過率」と「低抵抗」が、従来工法では相反する要素となっていたからです。低抵抗を追求すれば、配線アスペクト比を高めるために1本の配線は大きな断面積を必要とします。
従来のエッチング工法では、その面積を実現するために、4μm以上の線幅が必要となり透過率を下げる要因となっていました。太い線がななめ格子状に多数組み合わされば、その分だけ向こう側は見えにくい。逆に細い線では、抵抗値の性能に限界があるという構図です。
これを2μmに細くして線の高さに倍量を求めたのが、当社の独自技術「ロールtoロール」の新工法で、2回の溝整形工程でフィルム両面に微細な溝をつくり、そこを金属で埋める微配線工程で配線を完成します。一連のコンパクトな工程は、片面ずつ溝成型をする従来工法と比べると、製造コストや製造タクトの面でも大きく飛躍をとげました。
「長い開発期間を経て、ついにお客様に使っていただけますし、商品力に自信もあります」と打ち明けるのは展示ブースに立ったマーケティングの担当者。2μmに挑んだFineXの開発は、使用する材料と生産機器の見直しを繰り返しながら、業界初の工法へと道をつないできました。開発メンバーは「他社にはマネできない。そう確信があるのは、技術的なハードルがそれだけ高かったから。量産ラインの設計段階でも材料の調整に立ち返るなど、最後まで課題との戦いでした。そこを行き来して、両方を手元でチューニングできるのが私たちの強み」と振り返ります。
展示ブースの正面に据えたソリューション一覧には、FineXを活用した近未来が描かれました。前述のヒーターやディスプレイの他にも「調光デバイス」への応用、当社の手掛ける機能フィルムや多機能衝撃吸収材料との組み合わせなど、そこには広がりゆくパナソニック インダストリーのデバイス技術が掲げられています。
開発を主導したメカトロニクス事業部、タッチソリューションビジネスユニットのリーダーに、 FineXの強みと今後の展望を聞きました。
高度なモノづくり、デバイスの新規性で勝負する
野並 勇治[技術部長]
Q_今回の出展で、お客様の反応をどう感じていますか?
予想を超える数のお客様がブースを訪れ、手応えを感じています。特に車載関連の方からの注目度が高く、大型化する窓ガラスや車載パネルなどの用途で質問も多い印象です。EVは勢いのある業界であると同時に、電流をいかに効率的に流すかという課題にも向き合っている、その潮流を感じています。車のヒーターに関して言えば、車内全体を温めようとするのではなく、温めたいところだけを温める時代です。多くの方が環境性能に注目されますし、お客様ニーズを考えるときに欠かすことのできない視点です。その意味でFineXはEVの普及と省エネエネルギー指向、あるいは5G/6Gの高度情報化など、世の大きなトレンドにも合致しています。
展示ブースは開発に携わったエンジニアと営業職のメンバー10人の態勢ですが、ビーカーレベルの試作から関わってきたメンバーもいて、「FineX」も彼らの主導で決めた商品名ですから、思い入れのある商品をお客様に紹介しながら、対話を通じていい刺激を受けているようです。また、思わぬ業界の方、例えばバイオ関連の方が素材に興味を示されるなど、私たちにとっても幅広い業種の動向に触れる貴重な機会となっています。
Q_改めてFineXの強みと、今後の展望を教えてください
これまでの透明フィルムは、タッチパネルのような微量の電流ならば使えるものの、抵抗を下げると透明率が保てないというのが一般的な概念でした。ヒーターの熱を伝えたり、明かりをともして調光したりするレベルの電流では無理とされていました。FineXで私たちが訴求しているのはまさにここで「透明であっても、相当な電流が流せる」という特徴です。半導体のウエハ上ではなく、これを透明なフィルム上に成型するところに価値があります。さらに、アンテナ、ヒーター、調光と複数の機能を1枚のフィルムで満たすような溝成型パターンも視野に入れ、より高度な技術に私たちは挑んでいます。
FineXは高品質で価格競争力のある商品だと自信を持っていますが、機能を複合化する「三位一体のフィルム」が近い将来の目標です。私が思い描いているのは「日本のモノづくりで勝負する、一から開発したデバイスで金字塔を建てる」。海外メーカーに対して、コストやアイデアだけではなく、多彩な技術をすり合わせるデバイスの開発力で勝負を挑みたい。私たちの強みは、パナソニックインダストリーの多様性。若手の技術者もマネージャー層も、部門を超えて電子材料やデバイスソリューションのプロフェッショナルと連携しています。「透明な技術で未来をつなぐ」という信念のもと、FineXを軸によりよい未来を築きたいと思っています。