静電気対策に加湿器が効果的な理由とは?加湿方式の種類や選び方をわかりやすく解説
作成日:2024年9月6日
冬の工場で深刻な問題を引き起こす静電気。静電気対策には、加湿が効果的であることが知られています。
しかし、実際に加湿器を選ぶには、家庭用加湿器とはまた違った、工場向けの加湿器ならではのポイントがあります。今回は、工場向けの加湿器の種類と、導入する際の注意点を解説し、パナソニック株式会社のミストシステムを紹介します。
静電気による工場のトラブル事例
静電気ということばから連想されるのは、冬にドアノブを触ろうと手を伸ばした瞬間にバチッと痛みが走る、あの嫌な現象のことでしょう。痛みだけでも十分に不快ですが、静電気は特に工場においては致命的です。労災・製品破壊・不具合の頻発による生産性の悪化など深刻な問題を引き起こします。
静電気による火災・爆発の発生
静電気はわずかとはいえ火花を発生するため、これが着火源となって火災や爆発が発生することがあります。可燃性ガスや粉塵を扱う工場では、静電気対策がとりわけ重要で、静電気をそもそも発生させないことを第一に、発生してしまった静電気も迅速に逃がせるようにする必要があります。
静電気の電流による製品破壊
半導体工場では、特に静電気の被害が深刻です。半導体は近年ますます微細化が進み、今やナノメートルオーダーのパターニングが施されています。ナノメートルとはミリメートルの100万分の1という非常に微細なサイズであり、パターニングとは、半導体に描かれている回路をイメージしていただくとよいでしょう。
技術の向上により半導体の微細化が進んだために、静電気によるわずかな電流であっても、半導体のパターニングが溶けて切れてしまうことがあります。また、微細化により電圧に対する耐久性も低下し、静電気によるわずかな異常電圧にも絶縁破壊を起こすものもあります。
このように半導体が微細化し、集積度が向上することによって、これまでは問題とならなかった静電気レベルのわずかな電流・電圧も、深刻な製品破壊を引き起こすようになりました。
静電気の引力・斥力による生産性の悪化
ナノメートルオーダーの微細サイズの製品を取り扱っていない工場においても、静電気は深刻な生産性の悪化を引き起こします。その一つは、静電気による物理力(ひっぱる力である引力、しりぞけ合う力である斥力)です。
例①:シートを扱う工場
重ねたシートにローラーをあてて一枚ずつ搬送する工程で、静電気が発生してローラーとシートがくっついてうまく搬送できない、あるいはシート同士がくっついて複数枚まとめて搬送されてしまうというトラブルが発生します。
製紙工場や樹脂フィルムの製造工場など、製品自体がシート状の場合だけでなく、包装にシート状の樹脂フィルムを使う場合にも、このトラブルに悩まされることになります。
例②:エレクトロニクス分野
デバイスメーカーから購入した電子部品を組み立てる工場では、電子部品を包装から取り出す工程においてトラブルが発生します。チップ状の電子部品を取り出そうと、フィルム状の蓋を剥がすと、その剥離によって静電気が発生し、チップが蓋の裏にくっついたり、外に飛び出したりしてしまいます。特に近年はチップが0.5mm角程度に小さくなったため、静電気によるわずかな物理力の影響を受けるようになりました。
静電気の引力によるゴミの付着
扱う製品に関係なく、多くの工場で問題となるのがゴミの付着です。静電気により各種部材にホコリや異物が付着して不良品が発生します。
特に、塗装前の製品に異物が付着してそのまま塗装したり、エレクトロニクス分野で製品内部にホコリが入ったままで組み立てたりすると、後で除去ができず製品が出荷できなくなります。
静電気で付着したホコリは帯電しており、特に厄介です。静電気力により製品に強く付着するため、簡単に除去することができないためです。ホコリをとろうと製品を布で拭ったら、余計に静電気が発生してさらに多くのホコリが付着してしまうということが起こります。
このようなトラブルによる、工場で働く作業者の苛立ちやモチベーションの低下も深刻です。冬に入るまでは発生しないトラブルだけに、余計な工数や労力が突如かかることになります。納期が守れないと焦り、焦った状態で作業して、さらなるトラブルを引き起こすきっかけとなります。
静電気による副次的な労災
ドアノブに触ろうとして静電気が発生した際、私たちは無意識に手をひっこめます。これは脊髄反射と呼ばれるもので、意識して止めることはできません。
そのため、たとえば高所作業中に静電気が発生し、無意識に手をひっこめて、それをきっかけにバランスを崩して落下するという副次的な災害も発生する可能性があります。
このように非常に深刻な問題を引き起こす静電気ですが、古くからの静電気対策として加湿があります。
静電気対策に加湿が効果的な理由
ここからは、加湿が効果的な理由について解説します。
みなさんが静電気に悩まされるのは冬ではないでしょうか?夏にドアノブを触ろうとしてバチッときた経験は、ほぼないでしょう。それは空気中の水分が影響しています。
静電気とは電子が移動して帯電すること
そもそも、静電気とは何でしょうか?静電気とは、物質同士が摩擦などによって電子が移動し、プラスやマイナスに帯電した状態のことです。電気が流れることなく物質にとどまるように見えるため、動かないという意味で静電気と呼ばれます。
静電気対策は発生量を減らす&逃がす
静電気対策として、まずは発生量を減らすこと、そして発生した静電気を逃がすことの2つを合わせることが重要です。
発生量を減らす
しかしながら、こういった対策は工場では困難です。そもそも製造工程において必要のない動き(「接触」「摩擦」「剥離」)は行っていないので、なくすものがありません。さらに、ゆっくりと時間をかけるとそれだけサイクルタイムがかかるようになり、生産性の悪化やコスト上昇につながります。
発生した静電気を逃がす
逃がす方法は、導電体と絶縁体とで異なります。
- 導電体:アースと呼ばれる導電線で物体と地面とをつなぐことで、電気を逃がすことができます。これは、導電体はその表面や内部で電子の移動が可能なため、導電線を経由して、物質全体の静電気が地面へと移動できるためです。
- 絶縁体:電子の移動ができないため、アースをしても導電線のごく近傍の静電気しか逃がすことができず、ほとんど効果がありません。材料に導電性のある物質を混ぜる、表面に導電性を持たせる処理をするなどの方法もありますが、製品仕様が変わってしまうため、実施できないケースがほとんどです。
そこで効果的なのが、加湿と除電です。
- 加湿:湿度が高い環境では、静電気は空気中の水分をつたって外に逃がすことができます。これが、夏に静電気がほとんど発生しない理由です。加湿は古くから行われている静電気対策であり、工場全体の静電気対策が可能というメリットがあります。
- 除電:イオナイザーとよばれる除電器を使って静電気を除く方法であり、数秒で除電が可能です。しかしながら、ライン内にイオナイザーを設置するスペースが必要であること、局所的な対策であるために、複数箇所の静電気対策のためには数多くのイオナイザーを設置する必要があることがデメリットです。
加湿とイオナイザーは、併用して使うことでより有効な静電気対策として力を発揮します。まずは加湿をしっかりと行い、静電気が逃げやすい環境を工場全体に作ります。そして、それでもなお静電気が発生してしまう箇所にだけ、イオナイザーを設置します。こうすれば、イオナイザーをあちこちに設置する必要はなくなります。
工場の湿度管理に効果的な加湿器の加湿方式
では、工場で使える加湿器にはどのような種類があるのでしょうか?ここでは、加湿方式について解説します。
蒸気式
蒸気式は、熱でお湯を沸かし、蒸気で加湿する方法です。加湿能力が高いものの、湯を沸かすほどの熱が必要となるため、省エネ性が悪い点がデメリットです。
気化式
気化式とは、水を染み込ませたフィルターに風をあてて加湿する方法です。イメージしやすい例としては、濡れたタオルを振り回して部屋を加湿するのと同じです。
気化式は熱を使わなくて安全である一方、加湿能力が低いというデメリットがあります。とりわけ工場は天井が高く敷地面積が広いため、気化式ではパワー不足の場合が多いでしょう。
ミスト式
その名のとおり、ミスト式は霧を噴射して加湿する方法です。蒸気式と比べると、熱を使わないため安全で省エネです。気化式と比べて加湿能力も高く、工場において最もおすすめできる加湿方式です。
「霧」と聞くと、どうしても設備や製品が濡れるイメージを持ってしまうかもしれませんが、工場のミスト式加湿器の水は超微細でありすぐに蒸発するため、濡れる心配はありません。注意点として、適切な加湿量のコントロールが必要ですが、それは他の加湿方式であっても同様です。
工場の湿度管理に効果的な加湿器の設置場所
続いて、設置場所について解説します。ミスト式加湿器は床置きタイプと天井設置タイプとがありますが、工場では天井設置タイプが最適です。
床置き
床置きタイプは、床に据え置きにしたり、キャスターを付けて移動したりできるタイプです。設置が簡単なことがメリットですが、デメリットも多くあります。
まずはライン内にスペースが必要なこと、そして工場全体の均一な加湿が難しいことが挙げられます。また、給水方式がタンクに毎回水を入れて行うタイプの場合は、加湿器の台数分だけ水の入ったタンクを運ぶ作業が必要であり、非常に手間がかかります。
天井設置
天井に設置する場合、工場の生産ライン上に新たなスペースは不要となり、工場全体の均一な加湿も実現しやすくなります。天井への設置作業が必要となりますが、水は配管から供給されるので、重たい水を人が運ぶ手間もかかりません。そのため、工場に最適なのは天井設置タイプのミスト式加湿器だといえます。
工場のミストシステムを選ぶ際のポイント
続いては、実際にミストシステムを選ぶ際、どのような点に気を付ければ良いのか、注意点について解説します。
- 加湿能力について相談できる
- 維持費を見積もれる
- 脱炭素経営に貢献できる
加湿能力について相談できる
加湿能力は、工場の広さ、換気回数、その工場の立地、冷房運転の有無を考慮して決定します。
工場の広さは、床面積だけでなく、天井の高さも踏まえた体積で考えます。立地は、その地域が冬にどれくらいの気温・湿度になるか、工場の設備を動かした際や冷暖房を付けた際に工場内がどれくらい乾燥するかを考慮します。
ありがちなこととして、冬に向けてミストシステムを検討するのが春から秋であるために、楽観的な見積もりをしてしまい、いざ冬になった際に加湿能力が足りず、静電気に悩まされることです。必要な加湿能力を見積もったうえで導入を検討することが重要です。
したがって、ミストシステムを選ぶ際は、多種多様な工場への導入実績があり、加湿能力について相談できる会社を選ぶとよいでしょう。
維持費を見積もれる
ミストシステムは購入費用だけでなく、水道料金、電気代、保守点検などの維持費がかかります。ただ機械を1回購入して終わりというわけではなく、「システム」を購入するのだという意識が必要です。
購入する会社を選ぶ際も、そういった維持費についてシミュレーションのできるところを選びましょう。
脱炭素経営に貢献できる
工場の二酸化炭素排出量の削減・数値管理は、もはや必須事項となっています。ミストシステムは、ボイラー蒸気を使った加湿方式に比べ、省エネルギーで加湿を実現できます。
さらに、ミスト加湿は副次的なメリットとして冷房効果があります。工場では大型設備を動かしているため冬でも暑く、冷房をつける場合があります。そういった場合には、ミスト加湿が冷房の役割も果たしてくれるため、さらなら省エネを達成できます。
パナソニックのミスト式加湿器のご紹介
最後に、当社のミストシステムである「シルキーファインミスト」を紹介します。
濡れない加湿を省エアで実現
直径わずか約7.5㎛以下の超微細ミストであるため、設備や製品が濡らさずに湿度をコントロールすることが可能です。
近年では、真夏の商業施設の屋外エリアに冷房用のミストが設置されているのを見かけたことがあるかもしれません。そういった場所で使用されるミストは粒径が約20-35㎛ほどあり、ミストが当たると濡れを感じます。そのイメージがあると、「製品が濡れてしまうのでは?」と思うのも当然です。
しかし、ミストの大きさが違うため心配ありません。また、当社は超微細ミストをより少ないエアで実現していますので、エアを動かす電気代も抑えることができます。
加湿量・費用のシミュレーションと多数の導入実績
当社では、お客様の工場に合わせた必要加湿量のシミュレーションや電気代のシミュレーションを行います。多数の工場への導入実績があるため、経験を活かしたご提案が可能です。
体験・現場デモンストレーションが可能
当社の東京・浜松町ビルのショールームにて、シルキーファインミストの体験が可能です。実際に濡れない加湿であることを肌で感じることができます。その他、お客様の工場にて現場デモンストレーションも可能です。
まとめ
工場の静電気トラブルの事例と、静電気対策に加湿が効果的な理由、加湿器の種類、ミストシステムの選び方を解説しました。最後に、本記事のまとめです。
- 静電気は、工場に致命的なトラブルをもたらします。
- 静電気対策には、アース・除電・加湿がありますが、加湿は空気中に静電気を逃がし、工場全体の静電気対策に効果的な方法です。
- 加湿器の種類を解説しました。蒸気式、気化式、ミスト式の中で工場に最適なのは、ミスト式です。さらに天井設置タイプが現実的です。
- ミストシステムを選ぶ際のポイントを解説しました。「機械」を買うというより「システム」を買うという意識で、導入実績が豊富で、購入前も購入後もよく相談できる会社を選ぶことが大切です。
まずは、みなさまの静電気のお悩みをお気軽にご相談ください。お問い合わせは、問い合わせフォームからお願いいたします。
参考文献・リンク
パナソニックインダストリー株式会社, 製造現場の静電気対策 徹底ガイド
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