ESD(静電気放電)とは?わかりやすく解説します。

作成日:2024年10月4日

工場の静電気対策にお悩みでしょうか?工場内でESDが発生すると、製品に悪影響を及ぼします。今回は、静電気の概要について説明し、その後、ESDを防止するためにどのような対応をすれば良いか解説し、静電気対策に有効な製品を紹介します。本記事を読めば、ESDの適切な防止方法がわかります。

静電気とは

そもそも、静電気とは何でしょうか?まずは、静電気の概要について解説します。

静電気の概要

この図には、5つの陽子と5つの電子が描かれています。陽子とは、正の電荷を持つ粒子で、電子は、負の電荷を持つ粒子です。

なお、ここで電荷とは、電気を帯びた粒子のことを指し、さらに正の電荷を持つものを正電荷、負の電荷を持つものを負電荷といいます。

図1の場合、正電荷である陽子と負電荷である電子の数は等しいです。このような状態を中和状態といい、全体として原子は電気を帯びていません。

続いて、図2を見てみましょう。図2は、中和状態にあった2つの原子が接触しています。

2つの原子が接触すると、一方の電子がもう一方の原子へ移動することがあります。その結果、左の原子は、5つの陽子と4つの電子で構成されるようになり、右の原子は、5つの陽子と6つの電子で構成されるようになります。

その結果、左の原子は、陽子の方が電子より数が多いので、原子は全体として正に帯電します。一方、右の原子は電子の方が陽子より数が多いので、原子は全体として負に帯電します。なお、帯電とは電気を帯びることを意味する言葉です。

このように、2つの原子が接触し、電子が移動したことにより、帯電した状態を「静電気」といいます。

物質がどれだけ帯電しやすいかは、その物質によって変化します。以下の図は摩擦帯電列といい、物質がどれだけ帯電しやすいかを表しています。

この図のように、左側に進むほど正極性(正に帯電しやすい性質)を持ちます。つまり、電子を放出しやすいということです。一方、右側にいくほど負極性(負に帯電しやすい性質)を持ちます。つまり、電子を取り入れやすいです。

静電気の原因

先ほど、静電気が発生するには、原子の接触が必要だと解説しました。この接触の方法は、次の6種類に分けられます。

  • 摩擦帯電:摩擦帯電は、接触面がすり合わせって発生する帯電現象ですたとえば、セーターを脱ぐときに発生する静電気などが該当します。
  • 剥離帯電:剥離帯電は、接触している2つの物質がはがれるときに発生する帯電現象です。たとえば、保護フィルムが手にくっつくときに発生する静電気などが該当します。
  • 誘導帯電:誘電帯電は、静電誘導によって発生する帯電現象です。静電誘導とは、物質内部の電子が一方に偏って存在することによって、物質の表面に電荷の偏りが生じる現象です。
  • 接触帯電:接触帯電とは、2つの物質が接触することで生じる帯電現象です。このように、摩擦がなくても静電気は発生します。
  • 転がり帯電:転がり帯電とは、物質が転がることで発生する帯電現象です。工場内では、巻き取り機などで発生します。
  • 噴出帯電:噴出帯電とは、ノズルから液体やガスが放出される際に生じる帯電現象です。

静電気が引き起こすトラブルの例

先ほど解説したように、静電気は物質が帯電している状態を表す用語です。では、静電気は製品や工場でどのような影響を与えるのでしょうか?ここでは、静電気が工場内に及ぼす影響を5つに分けて説明します。

  • 電流による製品破壊
  • 引力によるゴミの付着
  • 引力・斥力による生産性の悪化
  • 火災・爆発の発生
  • 副次的な労災

電流による製品破壊

帯電した物体同士が接触することで発生する静電気の放電のことをESD(Electrostatic Discharge)と呼びます。帯電した人間や導体が偶然半導体素子に触れ、また、半導体素子が接地(アース)されていた場合、半導体素子に意図しない電流が一気に流れます。

このような状況になってしまうと、精密機械である半導体素子が完全に破壊されてしまう危険があります。静電気破壊は、半導体素子に触れる対象別に3つに分類されます。

  • 人体帯電モデル
  • マシンモデル
  • デバイス帯電モデル

人体帯電モデル

帯電した状態の手などがデバイスと触れたときに、放電が発生する可能性があります。下の図のように、デバイスが接地されていると、デバイス内で電流が流れ、ESD破壊が起こる危険があります。

マシンモデル

帯電した導電体がデバイスに触れることで、放電が発生します。デバイスが接地されていると、電流が流れ、ESD破壊が発生する危険があります。

デバイス帯電モデル

帯電したデバイスが、導電体に接触すると、放電が発生します。その際、導電体が接地されていると内部に電流が流れ、ESD破壊が発生する危険があります。

引力によるゴミの付着

静電気が発生するとゴミが製品や機械に付着します。これにより、機械に問題が発生する可能性があります。下の図のように、帯電量が多い物体の方がよりゴミの付着数も多くなり、それだけ機械に悪影響を与えます。

引力・斥力による生産性の悪化

光ファイバーや合成樹脂、紙片などが同じ符号の電荷をもつと、互いに反発するようになります。また、逆に異なる符号の電荷を近くに置いた場合は、物質同士で近づき、くっついてしまう可能性があります。このような、意図しない斥力や引力は製品の品質に悪影響を与え、生産性の悪化につながります。

このように、引力によるゴミの付着や引力・斥力による生産性の悪化が起こるのは、静電気によって物質間に力がはたらくからです。物質間にはたらく力は、主に次の2つがあります。

  • クーロン力
  • グレーディエント力(分極力)

クーロン力とは、電荷の間にはたらく力で、同じ符号の電荷同士の場合は反発し、異なる電荷の間には引力がはたらきます。たとえば、磁石のN極とS極のようなものだと考えればわかりやすいでしょう。クーロン力は電荷の大きさが大きいほど、また、電荷同士の距離が近いほど大きな力を発生させるという特徴をもちます。

グレーディエント力(分極力)は、帯電していない物質においてはたらく力です。

上の図のように、帯電していない物質でも物質内部で電気的に偏りが生じた結果、引力が発生する可能性があります。

このように、クーロン力やグレーディエント力(分極力)が、物質間に力がはたらくことによって、ゴミが付着したり、引力や斥力が発生したりして、生産性に悪影響を与えます。このような力を発生させないようにするには、静電気の発生を抑え、物質を中和状態にしておかなければなりません。

火災・爆発の発生

静電気の量が多くなり、帯電した物質が増えると、放電時に火花が発生する場合があります。この発生した火花によって、ガソリンなどの危険物に引火した場合、火災や爆発が発生します。このように、危険物を扱う工場はさらなる注意が必要です。

たとえば、平成30年6月にとある花火工場で、硝酸塩類という爆発性の高い物質が着火したことにより火災が発生しました。この結果、2名の従業員が亡くなっています。静電気はこのように、大きな火災にもつながるものであるため注意が必要です。

静電気による斥力、引力

光ファイバーや合成樹脂、紙片などが同じ符号の電荷をもつと、互いに反発するようになります。また、逆に異なる符号の電荷を近くに置いた場合物質同士で近づき、くっついてしまう場合があります。このような、意図しない斥力や引力は製品の品質に悪影響を与えます。

副次的な労災

静電気の発生によって、副次的な労災が発生する可能性があります。

たとえば、平成30年2月化学工業製品を扱う工場で、静電気放電による着火が発生しました。イソフタロニトリルという危険物質の粉末を投入作業中に、静電気放電によって着火し、火災が発生しました。

ESDの対策方法

これまで解説したように、静電気は精密機械に大きな悪影響を与える現象です。では、静電気はどのように対策すればよいのでしょうか?ここでは、精密機械から静電気を除去する方法について解説します。精密機械から、静電気を除去する方法は主に次の4つです。

  • 接地(アース)
  • 除電
  • 帯電防止剤
  • 加湿

接地(アース)

接地(アース)は、最も一般的な静電気対策方法です。アースとは、物質に存在する電荷を外部へ逃がす方法です。これにより、物質の帯電を防げます。

たとえば、固定された導体を接地すると、その装置は帯電しにくくなります。また、人体が帯電することを防ぐために従業員にストラップや、腕時計などを身に着けてもらうこともあります。

しかし、接地は、絶縁体などの電子があまり移動しない物質には不向きです。加えて、接地は物質の一部分に固定しなければならないため、工場内で移動する装置には使えません。

除電

除電とは、帯電している物体にさらに、電荷を加えることで全体として電気を中和する方法です。たとえば、除電したい対象が正に帯電していた場合は負の電荷を帯びている原子をくっつけることで中和します。一方、負に帯電している物質には陽の電荷を帯びている原子を接触させることで中和します。

帯電防止剤

界面活性剤のような帯電防止剤を塗ると、帯電を防ぐことができます。たとえば、搬送装置などに塗っておくと効果的です。

帯電防止剤を塗ると、塗った物質の表面の摩擦係数が小さくなり、摩擦による静電気の発生が抑えられます。また、物体表面の伝導性が高くなり、溜まった電荷を外に逃がしやすくなります。

一方で、帯電防止剤は使用するにつれて剥がれていくため、時間が経つと効果が薄れてしまうというデメリットもあります。また、移動する部品に塗ることはできません。

加湿

静電気は、空気が乾燥していると発生しやすいです。このことは、冬の乾燥した時期に、ドアノブに触ったり、セーターを脱いだりしたときに静電気が発生した経験を持つ方は実感しやすいでしょう。

乾燥していると静電気が発生しやすいのは、湿度が高い場合は物質表面の水分子からの放電によって、物質の帯電が抑えられているのに対し、空気が乾燥しているとこのような水分子の放電が行われないからです。そのため、加湿して空気中の水分を増やすことで、静電気の発生確率を減少させられます。

一方、過度な加湿も禁物です。装置の腐食や結露が発生したり、作業員の不快感にもつながったりするおそれがあるからです。

静電気対策にはシルキーファインミストがおすすめ

先ほど解説したように、静電気対策には複数の方法があります。その中でも、特に加湿を効率的に行えるのが、当社パナソニックの「シルキーファインミスト」です。最後に、精密機械の静電気除去に有効な当社の「シルキーファインミスト」について解説します。

シルキーファインミストとは、当社独自の二流体ノズルから生み出される極微細ミストの技術商標です。

現在、シルキーファインミストはさまざまな分野で活用されています。たとえば、屋外で利用すると水の気化によって夏の暑さを軽減します。

他にも、エンタメ業界ではスモークの代わりに使用されこれまでにない没入感を作り出します。そして、工場内で使用することで、室内が加湿され静電気の対策にも活用されています。

シルキーファインミストでの静電気対策

先ほども解説したように、静電気除去には加湿が有効です。

当社では、模擬実験を通じて空間への放電特性と温度の関係を調査しました。その結果、下の図のように湿度が高いほど、電位の下がり具合が大きいという結果になりました。

つまり、シルキーファインミストを活用して加湿することで、静電気対策ができます。

まとめ

静電気の概要と発生原因、ESDなどのような静電気が発生することで生じるトラブルについて解説し、これらのトラブルを防ぐ主な方法を4つ紹介しました。

ESDの発生を防ぐには、当社パナソニックの「シルキーファインミスト」が効果的です。シルキーファインミストを工場内の静電気除去手法を選ぶ際の選択肢の一つとして検討していただければ幸いです。

参考文献・リンク

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