成長、仲間獲得、スキル磨き
自分への見返り豊富な社会活動

企業の人と組織の課題解決を支援する(株)リクルートマネジメントソリューションズの機関誌「RMS Message 44号(2016年11月発行)」に、パナソニックのプロボノの取り組みを掲載いただきました。パナソニックはNPO法人サービスグラントと協働し、自社の社員がプロボノとしてNPO支援に取り組む「Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム」を2011年から展開しています。創設の背景と運用の実態をレポートいただいた掲載文を転載します。
text : 荻野進介 photo : 伊藤 誠

荻野進介、伊藤 誠

社会課題の解決に向き合い、実践できるのがプロボノの一番の魅力

最初にプログラムの概要から見ていこう。
パナソニックは2001年から「Panasonic NPO サポートファンド」を立ち上げ、NPOに対して助成を行ってきた。活動そのものではなく、組織基盤強化のための取り組みに対する助成、という珍しい枠組みだ。助成したNPOは280にのぼる。プロボノはそうした団体へのフォローアップ・プログラムという位置付けで行われている。

チーム単位で週5時間活動
社会課題の現場と社員との接点強化がねらい

参加者は4~6名でチームを作り、就業時間外にそれぞれ、各NPO向けに活動する。時間は週5時間程度で、無報酬だ。通常のやり取りはメールで行い、月1回ほど、ミーティングが開かれる。
任されるのは、中期計画の策定、WEBサイトの再構築、営業資料の作成、業務フロー改善提案、マーケティング調査など、人手の薄いNPOで後回しにされがちな分野だ。
6カ月後、成果物の納入で仕事が完了する。今年3月までで、127名の社員が参加、支援先NPOは18団体にのぼる。

このプログラムを担当するのが、自身もプロボノ経験をもつ、同社CSR・社会文化部事業推進課主務の東郷琴子氏だ。本人が話す。「若者の就労支援や不登校の子供たちへの学習支援を行っているNPOのWEBサイトのリニューアルに取り組みました。誰に何をどう伝えるかを提案する過程で、お子さん、親御さんといった当事者や有識者に話を聞くという得難い体験をしました」

パナソニック ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化部
主務 東郷琴子

東郷氏はサポートファンドの担当者でもあり、「応援した意義深い活動をしているNPOと弊社の社員との間に関わりをもたせたいという思いがありました。そこをつなぐ仕組みとして出合ったのが新しい形の社会貢献活動であるプロボノだったのです」。
2008年に部内に提案したものの、「ボランティア活動に従事する社員を支援する制度がすでにあるから」と実現には至らなかったが、「これまで培ったスキルが生かせること、チーム単位で取り組めること。この2つの魅力が社員にも受け入れられると確信していました」。熱意が実り、2011年4月にみごとスタートできた。

プログラムには3つのねらいがある。1つは社員のスキルや経験を広く社会のなかで役立てること。
2つは支援先NPOの事業展開力を強化すること。そして3つめは参加した社員のイノベーションマインドを向上させることである。

参加者の多くが40代の男性
未経験の業務にもチャレンジできる

希望者は事務局にスキルを登録する。社内のあらゆる職種の人たちだ。「こんな業務で貢献したい」という希望も聞く。「自分は技術者だがWEBサイトの構築ができる」「未経験だが、マネジャーのような役割を担ってみたい」という人もいる。新しい自分への挑戦がこのプロボノでできるのだ。
性別は7対3で男性が多い。年齢は40代が多数を占める。「プロボノという仕組みに興味をもち、社会貢献がしたいという意識は共通しています。
その上で自分のスキルを社外で試したい、仲間を作りたい、そもそもNPO活動に関心が強いなど、参加動機はさまざまです」(CSR・社会文化部 事業推進課 課長 喜納厚介氏)

なかには、特筆すべきスキルはないが、何か貢献できないかと問い合わせてくる社員もいる。「社会人としてのビジネススキルが身についていれば十分、活躍できます。そういう人には、仕事で当たり前にやっていることが先方で役立つんですよ、と背中を押しています」(東郷氏)

パナソニック ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化部 事業推進課
課長 喜納厚介

気候ネットワークのプロボノ写真

プロボノを受け入れた組織の1つが、地球温暖化防止に取り組むNPO「気候ネットワーク」だ。
6名で構成されるチームは中長期の事業計画立案に取り組んだ。NPO側は地に足の着いた企業の目線やノウハウをヒントにしたいと彼らを受け入れた。「6カ月が経ち、実際にあがってきたプランは満足のいくものだったそうです。一方の社員側も、『大組織での仕事は貢献度が分かりにくいが、プロボノはすぐ反応があり、大きなやりがいを感じた』『製品開発に使っている頭を別の方面で生かせた』『チームのなかで自分のメンターのような人に巡り会えた』などの感想を寄せてくれました。NPOと企業人の協働作業を通じて良い化学反応が生まれたと思います」(喜納氏)

参加社員は同じ社内でありながら、初対面というケースがほとんど。その結果、社内のまったく違う部署に知り合いができ、異職種交流になっていることを歓迎する声も大きい。
そこで、他社の社員との混合チームを組んだこともあったが、現在はパナソニック社員のみでのチーム編成となっている。「参加者が集まると熱気がすごい。口コミで輪が広がり、結束力が高いんです」(喜納氏)

参加した社員にはどんな変化が訪れるのか。
2015年度の活動に参加した16名へのアンケートによると、「NPO支援を通じた社会貢献を第一義に考えていますが、人材育成にも十分つながっています」(東郷氏)との言葉どおり、「本業外での経験で学んだ価値観や能力が、仕事での責任を果たすことに役立っている」(81%)、「社内において、新しい人間関係やつながりが得られた」(94%)と、仕事への好影響があったという回答が8割以上を占めた。
さらに、約半年の活動期間中に「他職種・他部署への仕事上の働きかけを増やすようになった」との回答も19%にのぼった。イノベーションマインドの向上を意味する、こうした仕事上の行動変容から社会にどんな価値がもたらされるのか、今後に期待したい。