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災害時に全国の多様な支援をつなぐネットワーク。
災害支援のノウハウを可視化し、被災者に適切な支援を届ける

認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)へのプロボノ支援

毎年、全国で大規模な災害が発生している。適切な支援が被災者に届くよう、現地で多様な支援組織の調整をしてきた「認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」。その災害支援のノウハウを可視化するプロジェクトに、パナソニックの社員で構成するプロボノチームが取り組んだ。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第378号(2020年3月1日発行)掲載内容を再編集しました]

被災地で必要な協働の仕組み
都道府県内での連携強化も

「JVOAD」設立のきっかけとなったのは2011年3月の東日本大震災だった。当時の様子を事務局長の明城 徹也さんが振り返る。

「東日本大震災では、のべ150万人のボランティアを災害ボランティアセンターが受け入れ、調整を行いましたが、支援団体に関しては調整役がいませんでした。NPO同士も横のつながりが薄く、同じような支援が重複したり、支援の届いていないところを把握できなかったりしました。そんな中で、被災者がニーズ調査を何度も受けるなどの負担が増えることもありました」

明城さんは前職で、 NGOの職員として難民キャンプ等での支援活動を主にしていた。「そこでは現地の政府と国連とNGOの調整役を担う団体がいて、そのリードで多様な団体が協働する仕組みが作られていた」という。

「支援団体の受け入れと同時に行政やボランティアセンターとも連携を進める調整役」の必要性を感じたNPOの有志が集まって、2013年に準備会を立ち上げ、2016年に「JVOAD」を設立。以来、熊本地震や2017年の九州北部豪雨、2018年の大阪北部地震や西日本豪雨、北海道胆振東部地震などへの対応を行ってきた。
一方で、平時から災害に備えて行政機関や企業、民間団体、専門家を結ぶ全国ネットワークを構築するほか、都道府県レベルでの連携を強める取り組みをしている。

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JVOAD
事務局長 明城 徹也さん
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JVOADが主催、支援関係者が集った「九州北部豪雨情報共有会議」(2017年8月)

「広域災害を想定して、都道府県域でも災害対応できるようなネットワークづくりと地域コーディネーターの育成も進めています。同時に、避難所の運営など災害支援の専門スキルをもつ団体を育成する勉強会も開いてきました」

しかし、毎年のように災害対応に追われるJVOADには課題もあった。
「災害支援を何度も経験したNPOの中にはさまざまなノウハウが蓄積されていきますが、その知見が団体内や個人にとどまり、広く共有されていない現状がありました。現場でうまくいったケースや具体例などを可視化しておくと、支援の質の底上げにもつながりますが、これだけ災害が続くと対応に追われて資料作成が後回しになり、コーディネーター研修でも事例をうまく伝えきれていませんでした」

災害支援団体にヒアリング
ベタープラクティスを可視化

この現状を受けて、パナソニックプロボノチームは2019年8月から「災害支援ノウハウの可視化プロジェクト」に取り組むことになった。まず、災害に関する制度や法律などについて下調べをした後、JVOADとの話し合いを重ね、「発災から住宅再建までの道のり」を図式化。それぞれの段階で必要になる支援が一目でわかるよう整理したうえで、経験のある5団体にヒアリングを実施。そして「行政の制度でカバーできたこと」と「コーディネーターの重要な役割と留意点」「民間がこれまでに行ったベタープラクティス(より良い事例)」をまとめ、JVOADへの提案を行った。

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中間提案会の様子(2019年12月)

たとえば、指定以外の避難所にいたり、在宅避難をしている被災者に関して行政はこれまでほとんど把握できていなかった。一般財団法人ダイバーシティ研究所が行政との連携で「在宅被災世帯実態調査」を行った結果、多くの支援につながったケースがあったことから、プロボノチームが同研究所にヒアリングを実施。2018年6月の大阪北部地震で被災した茨木市や、7月の西日本豪雨で被災した広島県坂町での調査実績と事例のまとめを提出資料に入れた。「こういった実績がまとまっていると、災害が起こった直後から行政への働きかけや連携がしやすくなります」と明城さんは言う。
さらに、仮設住宅を提供する行政の制度はあるものの、その中で使う生活物資を購入できない被災者も多いことから、「家電・生活物資支援」に関して、社会福祉協議会と連携し、被災世帯の見守り制度を活用して支援を行った熊本地震の事例をあげた。

また、弁護士団体へのヒアリングでは、相談窓口で活用できる情報をまとめた。土砂災害などではその処理を巡って隣人と裁判沙汰になることがあり、訴訟によらない紛争解決方式(ADR)が活用できることなどを紹介している。

今回、群馬からプロボノ活動に参加した山川 浩慎さんは、「自分自身、水や食料、持ち出し袋などを初めて災害に備えてそろえました。身近な人たちにも伝えて、プロボノや災害への備えをする人、考える人を増やしていきたい」と言う。

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山川 浩慎さん

資料をコーディネーター研修に使用
行政への説得材料にも活用

「行政は役割が分かれているので、いざという時に発災から住宅再建までの災害支援の流れをすべて理解している職員は少ないと思います。一連の流れを把握する民間のコーディネーターが都道府県ごとに必要なので、今回まとまった資料はコーディネーター育成の研修に使いたい」と明城さんは話す。

写真:JVOAD 事務局長 明城 徹也さん

また、プロボノは2回目の参加という本田 杉子さんは、「被災したのが自分の実家だったら、と想像しながら自分事として取り組みました。今回の災害対応のナレッジが広がることを期待したい」と語る。

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本田 杉子さん

プロジェクトリーダーの大嶋 真奈美さんは、今回が初プロボノ。「NPOが災害支援の現場で被災者に寄り添い、制度的にも足りない部分があるなかで、現場ごとに判断を迫られながら活動していることを今回初めて知りました」と感想を述べる。

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大嶋 真奈美さん

同じくプロボノは初めてという井上 あきのさんは、「災害のたびに気になりながらも、仕事と家庭で手いっぱいで現地ボランティアにはなかなか行けなかった。現地には行けなくても、こうしてお役に立てるプロボノはありがたかったし、とても勉強になった」と話す。

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井上 あきのさん

チームで一番若手の藤牧 ミオさんは「災害が自分事になっていなかったと実感した。今後も自分にできることをしていきたい」と語った。

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藤牧 ミオさん

明城さんは最後にこうつけ加えた。
「たとえば在宅被災世帯実態調査に関して言えば、被災して電気や水が止まっても、高齢者や障がい者を抱えて集団生活を送れないがゆえに家にとどまる人もいるのに、食事や物資などの支援は指定避難所にしか届かないことが多い。そういった在宅被災者のニーズを把握して必要な支援につなげることはなかなか実施されてきませんでした。この資料は行政に必要性を理解してもらったり、実態調査ができる団体を育成したり、コーディネーターが現場で実際に使うツールとしても役立ちそうです」

写真:パナソニックプロボノチームとJVOADの集合写真

認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)

東日本大震災での経験を踏まえて2013年に準備会を立ち上げ、16年NPO法人として認証を受ける。災害時の被災者支援活動が効果的に行われるよう、地域、分野、セクターを超えた関係者同士の「連携の促進」及び「支援環境の整備」を図り、活動を通じて将来の災害に対する脆弱性の軽減に貢献。

活動内容:全国情報共有会議【拡大版】の様子

パナソニックは、2011年4月より従業員の仕事のスキルや経験を活用してNPOを支援する「Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム」を開始。従業員のボランティア活動として、社会課題の解決に取り組むNPOの事業展開力の強化を応援し、NPOの活動がさらに大きな成果をあげることを目指している。これまで265名の従業員が参加し、50団体の中期計画策定やマーケティング調査、ウェブサイトの再構築などを支援。本活動はビジネススキルを活かした先進的な取り組みとして、2017年1月に「東京都共助社会づくりを進めるための社会貢献大賞特別賞」を受賞している。